サーカス  中原中也

幾時代かがありまして 茶色い戦争ありました幾時代かがありまして 冬は疾風吹きました幾時代かがありまして 今夜此処(ここ)での一(ひ)と殷盛(さか)り 今夜此処での一と殷盛りサーカス小屋は高い梁(はり) そこに一つのブランコだ 見えるともないブラ…

地面の底の病気の顔 萩原朔太郎

地面の底に顔があらはれ、 さみしい病人の顔があらはれ。地面の底のくらやみに、 うらうら草の茎が萌えそめ、 鼠の巣が萌えそめ、 巣にこんがらかつてゐる、 かずしれぬ髪の毛がふるえ出し、 冬至のころの、 さびしい病気の地面から、 ほそい青竹の根が生え…

春の日の夕暮  中原中也

トタンがセンベイ食べて 春の日の夕暮は穏かです アンダースローされた灰が蒼ざめて 春の日の夕暮は静かです 吁(ああ)! 案山子(かかし)はないか――あるまい 馬嘶(いなな)くか――嘶きもしまい ただただ月の光のヌメランとするまゝに 従順なのは 春の日の…