1990-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『見しらぬ犬』Miruz

見しらぬ犬 Miruz月夜。とても静かだ。 先程から見もしらぬ犬が私のあとをついてくる。 片足をひきずりながらついてくる。萩原朔太郎の詩を思いだした。 この見もしらぬ 犬が私のあとをついてくる、 みすぼらしい、後足でびつこをひいてゐる不具(かたわ)の…

『幻桜』Miruz

幻桜 Miruzはらはらと、桜の花びらが舞っている。 桜の散っている中にたたずんでいると、自分が世界に中心に立っているかのような気がする。桃色の瞬き。土の香り。 しかしその日、私は衰弱していた。一枚一枚の花びらが私の精気を吸い取って散っているかの…

『アンダーワールド』Miruz

アンダーワールド Miruzひんやりとした地下の空気が胸をつきぬけた。 紺色のネクタイまで冷たくはりついているようだ。深夜の地下鉄のホームは不自然なくらい明るく、それが線路の先のトンネル内の闇をいっそう際だったものに感じさせた。 鉄郎は、衰えケガ…

『幻影』Miruz

幻影 Miruz首を絞められた。 道を歩いていたら、後ろから突然。あわてて首に手をあてたが、そこには何もなく、しばらくもがき、膝をついて倒れたときにやっと、苦しさから解放された。振り向いてみたが後ろには誰もいなかった。 なにが起こったのか理解でき…

『幻滅』Miruz

幻滅 Miruz点滅する切れかかった蛍光灯の下で僕は待ち続ける。 望むものなどこないかもしれないし、この点滅によって僕の気が狂ってしまうほうが先かもしれない。いや、流れ出るこの赤い僕の思いが切れるのが先か。でも、この蛍光灯がなおるまでには、決着が…

『スニーカーハイ』Miruz

スニーカーハイ Miruzこんなところに靴屋があったっけ。 大学の帰り道、智弘は足を止めた。老舗という感じ。ちょっと古い靴屋があったからだ。何度も通った道だったのに今まで気がつかなかった。店を覗くと、小さな店内にはスニーカーが何足も並んでいた。智…

『退屈な映画』Miruz

退屈な映画 Miruzその繁華街は、暗く蒼い夜をオレンジや赤いライトが侵食していた。 そこでの主人公はオレンジや赤の照明で、行き交う人々はそこに取り込まれた、飾りのように見えてくる。 ネットリとした湿度や、騒音、臭い。すべてがその照明から、放出さ…

『ブラックホール』Miruz

ブラックホール Miruzブログなどを公開しているせいか、変なeメールが届た。(以下、eメールより転載) 差出人:SoMo 宛先: 件名:ブラックホール その黒く丸い点のようなモノを見るようになったのは、6月も始ったばかりのころ。梅雨時でジメジメとしたい…

『続 危険な虫』Miruz

続 危険な虫 Miruzガタンゴトン、ガタンゴトン JR総武線の電車に揺られていた。 「んー楽しみだ」 今日は、僕が新しい街で生活を始める日だ。これからそこへ向かうところ。引越しを予定していた日に急ぎの仕事が入ってしまい、会社にカンズメになってしま…

『駆け上がる人』Miruz

駆け上がる人 Miruz早朝の込みあった電車が、西上駅の1番線ホームに入っていく。僕は読みかけの文庫本をポケットにしまい、出口の前に移動した。列車が停車する。ドアが開く。他の乗客とともにホームへと流れ出る。 ちょうど目の前に上り階段が来る。そのた…

『危険な虫』Miruz

危険な虫 Miruzガタンゴトン、ガタンゴトン 電車に揺られながら惚けていた。 「あー退屈だ」 何か暇つぶしでもないかな。昨晩はたっぷり寝たせいか、まったく眠くないし。 ふと上を見上げると、網棚に誰かが置いていったらしい新聞があった。 「しめしめ、や…

『ラストハイウェイ』Miruz

ラストハイウェイ Miruzゴォォッーーーー 大きなエンジン音とともに、トラックの荷台が迫ってきた。 「危ないッ」 慌ててハンドルをきった。 「クソットラックがァー」 危ない危ない。後ろから追い越し車線を走ってきたトラックが、オレの車を抜いているとき…

『アフタヌーン・スーツトレイン』Miruz

アフタヌーン・スーツトレイン Miruzまどろんでいる。 感覚がゆらめいている。身体も小刻みにゆれている。 ガタガタと聞こえてくるノイズが心地よい。 またしばし、まどろむ。 少しずつ、意識が現実に戻されていく。 眼を開けてみた。 明るい、黄色っぽい室…

『シジン』Miruz

シジン Miruz「じゃあな、明日まってるよ」 そう言って電話を切った。 相手の名はカオリ。オレの無二の親友シンジの最愛の恋人だ。シンジとは高校の時知り会い、そして親友になった。高校卒業後、二人は学校こそちがうが、同じ都内の大学に進学した。 一緒に…