『退屈な映画』Miruz

退屈な映画

Miruz
その繁華街は、暗く蒼い夜をオレンジや赤いライトが侵食していた。
そこでの主人公はオレンジや赤の照明で、行き交う人々はそこに取り込まれた、飾りのように見えてくる。
ネットリとした湿度や、騒音、臭い。すべてがその照明から、放出されているかのようだ。
私はそんな街の中を歩いていた。 映画を見るのはとても久しぶりだ。 最後に見た映画が何だったのか思い出せないほどに。
人をかき分けて雑踏の中を進んだ。たまたま今日、映画のチケットを道で拾ったのだ。ちょうど拾ったところから、それ程離れていない映画館だったので、一人でそこに向かう途中だ。見に行く映画は最近話題の映画らしいが、よく私は知らない。半券の写真を見ると、サスペンスか、ホラーのような映画らしい。
そこに書かれている宣伝文句によると「この映画は造られた映画などではなく、ある街中で偶然拾われたビデオテープそのものなのだ! そして出演者達は依然行方不明。テープだけが残された!!」と、いうことらしい。
もちろんそんな事が本当なわけはない。「いかにもドキュメンタリーっぽい演出で作られている映画」というだけの事だろう。でもたまに信じてしまう人もいたりする。それは、どんなにウソっぽい作りでも「こんな事が本当にあったら面白いだろうな」という思いがつい先走ってしまい、それで信じてしまうのだろう。


映画は坂を上がった所に建つビルの地下にある映画館で上映されていた。上映開始時刻を確認すると、ちょうど映画は始ったばかりだった。早速館内に入るとロビーにはもう人は居ない。扉を開けると、予告編の最中だった。なんのとか本編の上映には間に合った。
席を見渡すと、暗くてよくは見えないが、二百ばかり有るだろう席の八割方が埋まっていた。やはり人気のある映画だったのだ。あまり端の席は嫌だったし、途中から入った後ろめたさもあって、他の客に足を上げてもらってまで、中の方に席に着く気も起きなかったので、前に進んでいくと、最前列の席には客がいなかった。ここでもいいかと、最前列のちょうど真ん中辺りに腰掛けると、ちょうど予告編も終わり、映画が始るところだった。


映画の内容は、四人の男女のグループが、ある街に度々現われるという魔女を探索していくというストーリーだった。その魔女というのは最近の若者たちの間で話題になっている、都市伝説のようなもので、それにかかわったものは皆、非業の死をとげると言った話らしい。
映画はいかにもホームビデオで撮ったような粗い画像で統一されていて、やはりドキュメンタリーの様な演出がされていた。今までもこういった手法をとった映画はいくつかあったので、それ程斬新さとか目新しさがあるわけでは無かった。良い点といえば、ちょうどこの映画館のある街でロケーションをおこなっていたので、知っている場所ばかりが舞台になっているのと、謎の魔女の存在感と魔女の怖さだけはしっかりと感じられたところか。
だが、映画全体の出来はかなり淡々とした展開で、面白みが無く退屈でしかたがなかった。そのため一時間位 たつと、うつらうつらとかなり眠くなってきてしまった。それでも何とか我慢して見ていると、謎の魔女の存在に近づくにつれ、メンバーが一人二人と失踪していき、やっと物語は展開し始めた。しかし普段の疲れのせいか、眠さがピークに達し…




「……が魔女の印だっ」
その声とともに目が覚めた。登場人物の一人が叫んだ声だった。映画見ながら寝てしまったみたいだ。退屈な映画なんだからしょうがない。映画はすでに三人の仲間が失踪してしまっていた。最後の一人がビデオカメラを回して、自分自身を撮っている。最後の一人は、すでに恐怖でパニックを起こしている様子で、次第に正気を失っていく過程が描かれていた。そして恐怖によって、遂に人格が壊れた時に手元からカメラが落ちて、映像が途切れる。そのまま画面にENDの文字が出て、映画は唐突に終わってしまった。
スタッフロールが流れている間、あまりの中途半端な終わり方にしばし唖然としていた。結局、映画は退屈な作品で、見に来たことを後悔していた。
登場人物もスタッフも少数だったらしいので、エンドクレジットも短く、あっという間に終わり、館内が明るくなった。
「どうせ拾った券で来たのだから、お金はかかってないのけど、時間の無駄だったな。速く出よう」
そう思いながら、しわの寄ってしまったスカートを整えながら立ち上がった。
その時後ろを振り向くと、館内にいたすべての客が、恐怖に脅えた表情で私を見つめていた。
Tedious a movie
2001/08/10初
2001/08/11改