『幻桜』Miruz

幻桜

Miruz
はらはらと、桜の花びらが舞っている。
桜の散っている中にたたずんでいると、自分が世界に中心に立っているかのような気がする。桃色の瞬き。土の香り。
しかしその日、私は衰弱していた。一枚一枚の花びらが私の精気を吸い取って散っているかのようだ。
桜が咲き始めた頃、私は元気だった。つらく、焦燥とした夢から覚めて、明るい太陽と平穏な日常を実感したときのような喜びに満たされていた。歓喜と至福が桜とともに咲き乱れていたのだ。
それなのに、今私は桜が散っていくとともに気持ちは萎え、言い知れぬ不安にさいなまれていく。そう、これは恐怖なのだ。私は徐々に恐怖にむしばまれているのだ。それはこの花が散りきったその時にやって来る。少しづつ記憶がはっきりしてきた。また闇に閉ざされるのだ。無なる闇。見えるものは無く、手に触れるものも無い。音もしない。全くの無音が続くという事が、どれほどの苦痛かわかるだろうか。普通ならば気が狂うのであろう。しかし私には気が狂う事すら許されていないのだ。時の流れも感じられる事は無い。その永劫の闇の中へ、狂気へと逃げる事も許されずに、また陥ろうとしているのだ。そう、また桜の花が咲くまで…


i公園内にイベントステージを増設するため、一本の桜の木が、撤去される事となった。その桜は公園内でも、もっとも美しいと評判だったため、一部の公園利用者の反対運動があった。しかし、なぜか近隣住民の間からは、撤去を求める声もあり、結局工事は強行された。その桜の撤去のとき、木の根本から白骨化した死体が発見された。死後数十年以上は経過していたその死体の身元は、依然不明なままで、手がかりも少なく、事件は迷宮入りとなる可能性が濃厚との事。
Cherrusion
2003/04/05