『続 危険な虫』Miruz

続 危険な虫

Miruz
ガタンゴトン、ガタンゴトン
JR総武線の電車に揺られていた。
「んー楽しみだ」
今日は、僕が新しい街で生活を始める日だ。これからそこへ向かうところ。引越しを予定していた日に急ぎの仕事が入ってしまい、会社にカンズメになってしまったけど、思いきって、ただ荷物を運び込むだけではなく、全ての家具を配置してくれるサービスを頼んでおいたから、今ごろ僕の部屋はキレイに家具類が並べられていることだろう。
東京に出てきて十数年。苦労の連続だったけど、人もうらやむような高収入を得られるようになった僕は、ついにマンションを買ったのだ。しかも都心で、駅のすぐ近く。まぁ僕もここまで来たかって感じかな。仕事も一段落つき、いまからやっとそのマンションへ行くところだ。
電車が代々木(よよぎ)駅に入った。
ふと上を見上げると、網棚に誰かが置いていったらしい新聞があった。
「そういえばここ数日仕事に掛かりっきりだったから、世間でどんなことが起きていたのか見ておこう
早速新聞を取って読み始めた。
「相変わらず景気の悪い記事ばかりだな、
あっちこっちの国では戦争ばかり起きているし、この日本でも残虐的な犯罪ばかり起きている。どうしたことか。
「あれっ、また政治家の汚職か。どうして政治家にはこう下品な奴が多いのかね。
「ふむふむ『クローン技術、さらに進む』か。
やっぱあれだね、「クローン人間は、造ってはダメ」っていくら決めても、どこかで絶対に造っちゃうやつらが出てくるよね。いろいろ理由をつけてさ。学者たちの好奇心を押さえることは不可能だろうからね」
などと考えながら読んでいると、片隅に奇妙な記事を見つけた。

『危険! また有毒な虫が研究所を、脱走』
*月*日午前十時ころ、**県の**市にあるヨンズバイオ研究所において、研究中だった新種の虫が所員の管理ミスによって脱走してしまった。
その虫とは、同研究所で最近、偶然開発されたものだった。この虫は極めて特殊な性質を持っていて、文字そのものを食料としている。しかもご丁寧に字詰めまで行う。この虫じたいは、直接人間に有害なモノではないが、虫が食べた文字に、その言葉の持つ意味が影響力を持ってしまい、その力は半径十数キロメートルにも及ぶらしい。逃げた虫は一匹だけだが、充分な注意を必要とする。研究所では現在、総力を上げて虫を捕獲しようとしている。

「なんだ、この記事は何かの冗談か。今の世の中、変なことばかり起こるね。
だいたい「虫が食べた文字に、その言葉の持つ意味が影響力を持ってしまい、その力は半径十数キロメートルにも及ぶらしい」ってどういう意味だ」


読んでいるうちに千駄ケ谷(せんだがや)駅に着いた。
次の信濃町(しなのまち)って駅が僕の新しく住むマンションのある駅だ。実をいうと僕は長野県の出身。つまり信濃の国の生まれなんで、この駅名には前から愛着があった。ここに住むのを決めたのも、そんな事が頭の片隅にあったからかもしれない。新聞の他の記事を読んでいるうちに目的地に着いた。
「着いたぞっ、これから新しい街で、素晴らしい生活が始るんだ」
ホームに降りると改めて僕は駅名を見た。そこにはこうあった。


 しのまち


Second strange bug
2001/01/23初
2001/02/10改