▼Happy Birthday宮沢賢治

 今日8月27日は、宮沢賢治の誕生日。1896年8月27日に岩手県で生まれました。

 ですから私の一番好きな詩を掲載します。有名な『春と修羅 〔第一集〕』の「序」です。

 むかし私は詩などに興味はありませんでした。アニメ映画「銀河鉄道の夜」を見た時、始めて宮沢賢治の持つ世界の奥深さをり、映画エンディングに読まれたこの「序」の朗読を聴いて、始めて詩の持つすごさを実感しました。意味などはサッパリ分からないのだけど、この言葉の持つかっこ良さにうたれたのです。おそらく本などで読んでもなんとも思わなかったでしょう。朗読を聴いて始めて詩の面白さを知ったのです。詩なんて興味ないと思っている人も、朗読を聴く事で興味が出てくるかも知れませんよ。



わたくしといふ現象は

仮定された有機交流電燈の

ひとつの青い照明です

(あらゆる透明な幽霊の複合体)

風景やみんなといつしよに

せはしくせはしく明滅しながら

いかにもたしかにともりつづける

因果交流電燈の

ひとつの青い照明です

(ひかりはたもち、その電燈は失はれ)


これらは二十二箇月の

過去とかんずる方角から

紙と鉱質インクをつらね

(すべてわたくしと明滅し

 みんなが同時に感ずるもの)

 ここまでたもちつゞけられた

 かげとひかりのひとくさりづつ

 そのとほりの心象スケツチです


これらについて人や銀河や修羅や海胆は

宇宙塵をたべ、または空気や塩水を呼吸しながら

それぞれ新鮮な本体論もかんがへませうが

それらも畢竟こゝろのひとつの風物です

たゞたしかに記録されたこれらのけしきは

記録されたそのとほりのこのけしきで

それが虚無ならば虚無自身がこのとほりで

ある程度まではみんなに共通いたします

(すべてがわたくしの中のみんなであるやうに

 みんなのおのおののなかのすべてですから)


けれどもこれら新生代沖積世の

巨大に明るい時間の集積のなかで

正しくうつされた筈のこれらのことばが

わづかその一点にも均しい明暗のうちに

  (あるひは修羅の十億年)

すでにはやくもその組立や質を変じ

しかもわたくしも印刷者も

それを変らないとして感ずることは

傾向としてはあり得ます

けだしわれわれがわれわれの感官や

風景や人物をかんずるやうに

そしてたゞ共通に感ずるだけであるやうに

記録や歴史、あるひは地史といふものも

それのいろいろの論料(データ)といつしよに

(因果の時空的制約のもとに)

われわれがかんじてゐるのに過ぎません

おそらくこれから二千年もたつたころは

それ相当のちがつた地質学が流用され

相当した証拠もまた次次過去から現出し

みんなは二千年ぐらゐ前には

青ぞらいつぱいの無色な孔雀が居たとおもひ

新進の大学士たちは気圏のいちばんの上層

きらびやかな氷窒素のあたりから

すてきな化石を発堀したり

あるひは白堊紀砂岩の層面に

透明な人類の巨大な足跡を

発見するかもしれません


すべてこれらの命題は

心象や時間それ自身の性質として

第四次延長のなかで主張されます


   大正十三年一月廿日      宮澤賢治

web site 宮澤賢治の詩の世界

新編 宮沢賢治詩集

DVD 銀河鉄道の夜