▼『女王の教室』女王の説得力

"女王の教室" 最終話
NTV
Japan(2005)
Official Web

 なんかあんまりすっきりしないです。民放のテレビドラマなので、スキャンダラスな内容で視聴率稼がなければならないのは仕方がないとしても、最終的に納得のいく終り方でないと、「単なる生徒をいじめる先生。でも実は子供思いのいい先生なんだから許してよ。ほら、子供たちも最後にはあんなに先生の事慕ってるし」…ってご都合主義じゃ面白いドラマにはなりませんよ。

 まず、最終的に生徒たち全体が真矢に対して心を開く根拠が薄すぎる。生徒たちがぶつけた質問の答えは、いかにも子供向けの答えで、それだけで納得のいく物ではない。なんか説得力あったのは、今までの真矢の態度に比べてギャップがあるからにすぎない。普段意地悪なヤツがたまに優しい行動に出ると、普段優しいヤツの行動よりも印象に残るのと同じ原理。子供だまし的な答えが一番真矢の嫌いだった事ではないのか?

 真矢の教育方針は「今の社会にはいじめなどの酷い出来事が多すぎる。それに打ち勝つ事の出来る力をつけるために、自らが壁となる」「壁に打ち当たった事の無い子供は弱いから」と言うものだったわけですが、真矢は自分の蒔いた種によって生徒たちが傷つきはしないか心配で寝る間も惜しんで見張っていた。だからいい先生だと言うのだが、生徒24人を全て一人で監視するなど無理な話、家の中までは見張れないのだし。つまり真矢は自分で管理できない程の壁を作っていたわけで、あげくの果てにそれが原因で身体を壊して倒れてしまう。真矢が最初に言っていた授業中トイレに行きたくなってしまうのは自己管理が出来ていない証拠だといっていたが、一番自己管理が出来ていなかったのは真矢だった。この教育方針で一番怖いのは何らかの形で真矢が中途退場してしまって、壁が放置されてしまう事である。だから何よりも真矢の自己管理が必要とされるはずなんだけどね。

 真矢は前の学校で凶悪ないじめを行っている生徒を痛めつけた。これが間違った方法だと言うことは前回の記事で書いたけど、その間違った方法を取ってそれをいまだに正しいと思っている真矢が「世の中にある不当ないじめから身を守る力を身に着けるための教育」というのは説得力が無い。

 真矢はどうしてそんなに頑張れるのか? と訊ねられ「教育は奇跡を起こせるからです」と答える。奇跡を起こすためにはある程度の犠牲が必要だという事なのか? リスクを顧みずに奇跡を起こす事に腐心しているとしたらそれは真矢のエゴではないか?

 スキャンダラスないじめシーンで視聴率稼いで、結局最後に生徒に涙を流させて「先生はいい先生だった」って言わせれば丸く収まる。では、教育問題をあつかっている話にしては内容薄過ぎの様な気がする。ドラマとしてはそこそこ楽しめたからいいのだけどね。たかだかドラマになに真剣に書いてんの? って思われるかもしれないけど、最初このドラマを見はじめた時、うまく結末に持って行ければこのドラマは名作になるかもって思ってしまったもので。

 真矢の影響で周りにいた教師たちが失っていた、あるいは間違えていた教育に対する情熱を取り戻すところは良かったな。内藤剛志はさすが。さえない先生やっておきながら最後の美味しいところは持っていく。これも演技力のなせる技。

「人が強くなるためには壁が必要だ」というのは同じころに放送されていたドラマ『ドラゴン桜』の桜木弁護士も言っていたセリフ。この原作のマンガは東大受験のためのノウハウや精神論を書いているマンガらしいのだが、ドラマは青春ドラマとしてとても面白かった。ほとんど突っ込みどころが無い桜木のセリフに毎回引き込まれてしまった。

 桜木と真矢は同じようなキャラクターなのだが、大きな違いがある。それは真矢の生徒を教える理由が「教育は奇跡が起こせる」という曖昧なものであるのに対し、桜木が生徒を教える理由は「自分の名を売って仕事につなげるため」という具体的で現実的なところだ。そのせいか真矢の言っているセリフにあまりリアリティは無かったが、桜木の言葉にはリアリティがあった。

 同じ長身でスタイルも良く顔もいい真矢と桜木。見た目のキレイな者が堂々と話す言葉の持つ力についても考えさせられて面白かった。 天海祐希はほんと美人。普通の役ではなく今回のようなアクの強い役をまたやってほしいな。あっ、阿久津真矢という名前は"悪魔的"からついたのではなく"アクが強い"からきたのだな。

 それともう一つ真矢と桜木の大きな共通点が! それは両者ともApplePowerBookを使っているところ…

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