▼ドラマ『野ブタ。をプロデュース』第1話 隅田川と高層ビル。をプロデュース

"野ブタ。をプロデュース"第1話
NTV
Japan(2005)
Official Web

 原作はデブでいじめられっ子の転校生、信太を主人公が人気者にするという内容らしい。(原作は未読) しかしドラマ化にあたってそのいじめられっ子が堀北真希だと聞いた時点で、原作の暗くて見た目の気持ち悪いデブを人気者にプロデュースする話ではなくて、汚く扮装させた美少女を元に戻す話になるだけだと思ってしまった。そもそも原作から受ける印象は、クラスでそこそこの人気者(強者)の立場の話でしかなく、いじめられっこ(弱者)の立場は無視されているかのような感じだ。ここでは"いじめ”も”偽善”もネタでしかないのではないか? そんな疑問もあり(←だったら原作読めよ! でも1050円も払う気がおきない)、少し抵抗感がありつつドラマを見始めた。

 冒頭主人公の桐谷修二(亀梨和也)が通学途中に自転車を担いで小さな階段を駆け上がるとその先は、向こう側に高層ビルを臨む隅田川。路地から河、この場面の展開から一気にこのドラマは有りだなと思った。前にもここで書いているけどロケーションを大事にするドラマはそれだけで面白い。特にこのドラマは自分たちを見下ろすように建つ高層ビル群とその下で暮らす俺たちってのが一つのメタファーになっている。

 修二は高校生だが少し早熟なのか、醒めたところがあって高校生活になじめていない。同級生が皆ガキに見えてしまうのだ。しかしその中で彼はうまく立ち回って少しクールで面倒見のいい生徒を演じている。それをゲームだと自分に言い聞かせて。

 その修二にも天敵はいて草野彰(山下智久)がそれ。彼はドラマ『池袋ウェストゲートパーク』のキング(窪塚洋介)のようなしゃべり方をしてかなりクラスからも浮いていて、修二のペースを乱す存在。しかし彼のキャラクターが秀逸。このドラマを動かすキー的存在だ。

 実は彰は大企業の社長の御曹司で金持ち。件の高層ビルに会社を構えそこに暮らす”見下ろし組”の一員だ。将来社長を継ぐ事になるのだからそれまでの間青春を謳歌してこいといわれ今は自由な立場。で、小さな古い豆腐屋の二階に下宿しているが、金持ちで何もかも与えられてきたせいか、自分で目指す物も、欲しい物も無い。それが彼の悩み。

 信子は幼いころ両親の離婚と再婚によって大人に裏切られ、その事で人生を悲観している。だから自分に自信が無く、自分から立場を変えようという意志を放棄している。

 一話を見たかぎり、最初にあった原作からの印象「主人公(強者)がいじめられっこ(弱者)を見下ろしている」はあまりない。人気者にするという計画も、修二、彰、信子それぞれ自分の為に行うというのが前提になっているので偽善臭さもあまりない。

 今のところ高層ビルのメタファーが「大企業の連中の思惑によって消費者の持つ価値観がコントロールされている。だからその方法論を使って信子の価値観をコントロールする」という感じになっている。これが今後「主人公(強者)がいじめられっこ(弱者)を見下ろしている」メタファーにならない事を祈りましょう。

 柳の木のエピソードが信子に自分を変える(自分の住む世界を変える)事を決意させたりと、ストーリーはかなり面白い。

 体育教師に木村祐一を配したところも凄くいい。

 修二の住むマンションの屋上には丸い給水タンクがあり、彰の住む下宿先には木製の古くさくて味のあるベランダがあり、学校の屋上には天文台と巨大なパラボラアンテナがある。そんな高層ビルの見える場所のロケーションがどれも素晴らしく、隅田川もうまく使われている。

 そんなわけで、最初の印象をうまく裏切ってくれていてすごく楽しみなドラマだ。 

第1話追補>

本: 野ブタ。をプロデュース