『本の読み方 スロー・リーディングの実践』平野啓一郎 #02

  • 「第3部 古今のテクストを読む」

この章から実践編

作品の中でキーワードとなるものを探し、その言葉が様々な場所でどう呼応しているか考えながら読む。
作中に疑問文が出てきたら要注意。作者が読者の疑問や反論に答えようとしている可能性がある。また、なぜその疑問が発せられたのかも考えてみる。
常に「なぜ」と疑問を満ちながら読むのが基本。
「◯◯が〜」「△△は〜」のような対句的表現が出てきた場合、何が対比されているか考える。
作中に何か唐突だと感じたり違和感がある場合は、そこに意味がある場合がある。小説の中にはそういった感じでヒントがいくつもちりばめられている。
古典の場合主題を現代と引き比べてみる。
作品内の5W1H(だれが、いつ、どこで、何を、なぜ、どのように)と作品の成立にかかわる5W1Hを明らかにしながら読む。それによって主題を浮き立たせる。
再読を行う際「構造の全体を視野に入れて読む」

こころ (新潮文庫)

この作品の中には主題となるものが二つあって先ずその一つの「足りることを知っている」が示される。人間は際限ない欲望もっているが、いかに「満ち足りる」かという問題である。
そしてその後に「安楽死」の問題が示される。
この作品はかなり厳格な道筋でもって、安楽死をさせるに至る行程を描いている。これは安楽死が完全な同意の元で行われていたことを標さなければ、主題を厳密にできないからである。
その後安楽死を行った者が殺人犯として罪を受けなければならない事になり、それをどう感じているかは、明確に示されない。ここは読者が自分なりにどう感じるか思案すべき場面だからである。
「情景の効果」を見落とさずに読む。情景の効果とは、例えば弟を死なせた時に夕暮れを迎える場面を描き「暗くなる」「状況が終わりつつある」といった風に全体のトーンを指し示したりする効果の事。
他にも老婆を登場させる事によって、公正さを示したり、問題を私的領域から公的領域へ移行させる効果になっている。
小説は自分の人生の中に不意に侵入してくる「異物」と見なして考える。それを条件を変えて読み直したり、深く読む事で、異物を自分の中に取り込んでいく事が読書だと言う事です。


些細な手がかりから解釈を広げていく手法ばかりでかなりの推理力を必要とします。しかし、これも「読み慣れる」ことによって鍛えられるのでしょう。
スロー・リーディングは再読を前提として読み進める事だと思います。でなければかなり敷居の高い手法ですよ。それに、ある程度レベルの高い作品でなければ、推理の半分が徒労に終わりそうなので、作品の選択は重要だ。
高瀬舟』を全部読んだわけではないが、「第2部」で書かれた誤読の方法で広げてみると、最初に示された主題の「足りることを知っている」は、主人公が弟の死を無駄にさせないために意識的に強行している精神状態なのではないか。つまり、弟の死の罪をかぶってしまった主人公が島流しを不幸と感じていたら、弟の責任になってしまうので、あえて、自分は不幸だと感じないようにがんばっているのかもしれない。

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)