『高校生のための文章読本』梅田卓夫, 他 編 #03

妻を亡くし死を考えていた筆者が、広島で原爆被災し、その後に書いた散文。

    • 本文(の自分の感想)

意味を深く探ろうとしたら、かなり難易度の高い文章ではある。しかし深く考えずとも、混沌とした思いと焦燥感は伝わってくる。
多くの死を目の当りにしたために、今感じているのは、自分の思いなのか、死者の思いなのか。あまりにも多い死者の未練が自分にのしかかっているような気がして、それに押しつぶされているかのような印象を受けた。

    • 解説(の要約)

原民喜は詩人でもあるため、「散文を書いても一語一語、一文一文が常に言外の深い意味を象徴してしまう」という事です。
彼が原爆で体験したことを表現しようとしてもそれは言葉で言い表すことの出来ない「得体の知れないもの」であるため、幾つもの言葉並べ、なんとかその「得体の知れないもの」を表現しようとしている。
矛盾した表現でも、そうとしか表現し得ないものもある。
その「得体の知れないもの」を仮に「嘆き」としてもその「嘆き」が「僕のなか」にあるのか「僕」が「嘆きのなか」にあるのかもわからない。
そして、この表現は計算の上に立ってここなわれているのではなく、ほとんど無意識に行っているものである。
しかしその「得体の知れないもの」が生者と死者をつなげている絆である。

僕をつらぬくものは僕をつらぬけ。一つの嘆きよ、僕をつらぬけ。無数の嘆きよ、僕をつらぬけ。僕はここにいる。僕はこちら側にいる。僕はここにいない。僕は向こう側にいる。

圧倒的な死を目の当りにし、自分の中からわき上がってくる気持ちの得体の知れなさに困惑し、その中で生き残った自分の、その生きる意味にまた困惑し、そのプレッシャーに押しつぶされている感じを私は受けました。

原民喜戦後全小説〈下〉 (講談社文芸文庫)
高校生のための文章読本