『かもめ食堂』荻上直子監督 DVD

たまに、いつまでも永遠に観ていたい映画やドラマ、いつまでも読み続けたい小説ってものがあるけれど、そんなものに出会うのは本当に稀だ。この『かもめ食堂』は「すごく面白い!」というわけではないがずっと観ていたいと思える映画だった。
その理由はフィンランドのロケーションの素晴らしさと、かもめ食堂の清潔感なのだと思う。そこで特に大きな事件が起こるわけではないが、日常と、ちょっと寓話的なエピソードと、人と人が少しずつ繋がっていく場面が描かれていく。それだけでこの映画はいい。
フィンランドヘルシンキの街並はいかにも北欧といった感じで素晴らしい。どの建築物も市場も書店も石を敷き詰めた道も港も河も森も全て画面に映える。
金曜日から近所のTUTAYAで、半額レンタルが始まったので、大量にDVDを借りてきた。これもその中の一枚で、どんな内容かもまったく知らず、ただ、何十枚も並んでいるこのDVDの残りの一枚だったので借りてきただけだ。監督の荻上直子は前作の『恋は五・七・五』を観ていた。それは青春映画の佳作だったので、少し興味はあったが、おばさん三人が主人公の映画はそれほど興味が無い。だから、この映画との出会いはこの映画の中で人々が出会うような感じの何気ない偶然だった。
そして、今日仕事が休みだった私は正直なところ少し憂鬱だった。孤独だったからです。遊びにさそうような相手もいないし、お金もたいして無い。読みたい本も沢山あるのだけど、孤独になればなるほど、気力もわかなくなってくる。そんな時だったからこの映画を観てすごく元気づけられた。
この映画が連続ドラマだったら面白いのになと思った。キャストにもスタッフにもヘルシンキに住んでもらって、毎週30分でいいので、何気ない日常と、たまに寓話的な話をフィルムで撮った物を放送するのだ。そしたら毎週楽しみになるのにね。
ちなみに私はガッチャマンの歌を全てソラで歌えました。少なくとも悪い人ではないようです。
おにぎりをジャパニーズソウルフードと言うのだが、なんか日本人はおにぎりを特別視するきらいがある。もっと何気ない日常のものとしてとらえていいのではないかな。そのほうがかもめ食堂がおにぎりにこだわる理由も面白くなる。
主人公の小林聡美が、「もし明日世界が滅ぶとしたら、やりたいことは美味しい物を食べること。好きな人だけを招待して、おしゃべりしながら食べるのだ」と言っていた。人生なんて焦らず欲張らず、誠実に少しずつ「世界が滅ぶときに食事に招待できる人」を作って行くものなのだと思った。だから少し救われた。
映画の中では「おにぎりもコーヒーも人に作ってもらったものが一番うまい」と言っていた。他の人に作ってもらった食事がどれほど貴重で素晴らしいものか、知っているだけでも孤独でいることの価値があると言うものだ。