『旧約聖書を知っていますか』阿刀田高 #08

「第10話 ヨブは泣き叫ぶ」
今回のヨブのエピソードは面白い。大まかな話は、正直者で信仰も厚く多くの財産を擁しているヨブという男がいた。神とサタンがそのヨブの信仰心の大きさを試すためにありとあらゆる不幸を彼に下す。というい神の自尊心を満足させるだけのようにしか感じない、いつも通りの信仰テスト。
家族も財産も失った上に重い病気にかかったヨブが友人と論争する。

ヨブ「私はこれほどの苦しみを味あわなければならないような行いはしていないはず」

友人「神の行いに間違いは無いはずだから、自分では気づかないうちに重い罪を犯していたのだ」

と、やりあうのだが、

「神の行いは目先の出来事だけで判断できるものではない。一つ高い次元で考えれば理不尽なことも理にかなったものに見えてくる」という結論に行き着く。
つまり、ヨブの体験は理不尽ではあるが、後の世でこの話が語られ、それにより人々が思慮を巡らせるのであればヨブにとっては栄光であるはず。といものだった。
つまり信仰による目先の代償を求めるな。神の考えは人間の思慮を超えているのだから、人にできることはただひたすら信仰するのみなのだ。代償を受けることを喜ぶのではなく、信じることそのものを喜びにするべきというのだ。
ここら辺の考え方もキリスト教の大きなポイントなのでしょうね。


ジャンセニスムヤンセン主義)というキリスト教の教派の思想が出てくるのだけど、これは「神がすべてをなす、人間には何もできない。一切の出来事はあらかじめ決められていて変えることはできない」という大胆なもの。これってこの前記事にも書いた、映画『サマータイムマシン・ブルース』で最後に出てきた話、タイムパラドックスを解決するための回答と同じだよね。『サマータイムマシン・ブルース』はジャンセニスム的だった、面白い。

旧約聖書を知っていますか (新潮文庫)