『ウェブ進化論』梅田望夫 #02

  • 第二章 グーグル-知の世界を再編成する(途中まで)
  1. グーグルの実現する民主主義 (要約)
    • ネットバブル崩壊後のシリコンバレーは2000年11月を境に衰退しつつあった。そんな時Googleは台頭し始めた。
    • ・世界政府が開発しなければならないはずのシステム
      Googleは「世界中の情報を組織化(オーガナイズ)し、それをあまねく誰からでもアクセスできるようにすること」を行おうとしている。その「情報の組織化」のひとつとして、「グーグル・アース」を提供し世界を驚かせた。そして最終的には自動翻訳技術の開発により、言語を意識せずにインターネットを使えることを目指す。
    • ・ウェブ上での民主主義
      Googleではウェブサイト交互のリンクの関係を分析し、どの情報が最も求められているかを探る。「最も適した情報」の順位付けの基準を「ウェブ上での民主主義」を持って決めているのだ。
      もともとITなど存在しなかった現代社会があり、「既存の社会の枠組みの中でITを使いこなすべき」という視点と、「ITの進歩による新しい仕組みに人間側が対応していく」という視点があるが、Googleは後者の視点に立っている。それはあたかも「インターネットの意志」に突き動かされているかのようだ。

前回Googleが情報を整理し権威付けることになると、巨大な力を持つことになり、それが「怖い」な、と書きましたが、その権威付けの原理に民主主義的な方法を用いている点がすごい。やっぱ「面白い」に訂正。

  1. インターネットの「あちら側」の情報発電所
    • ・ネットの「こちら側」と「あちら側」
      「こちら側」とはネットの利用者とその端末である。「あちら側」とはインターネット上のバーチャルな世界、情報発電所とも言うべき場所。
      ネットワークへのアクセススピードとコンピュータの処理速度の向上のおかげで、今までの「こちら側」に置いた情報を「こちら側」で処理するよりも、「あちら側」に置いた情報発電所で処理する方が合理的になりつつある。
      ユーザが情報を置く場所と処理する場所を「こちら側」に置くか「あちら側」に置くかで、産業全体の重心は移行していく。この重心の行方がこれからのIT産業の本質。
    • IBMのパソコン事業売却の意味
      ネットとパソコンがつながって利便性を感じるとき、その利便性の主体を「こちら側」と「あちら側」どちらに持っていくかの付加価値争奪戦が行われている。米国は「あちら側」に力を入れ始めているが、日本はまだ「こちら側」力を入れている。
      付加価値が「あちら側」に移行してしまえば、「こちら側」のモノは単なる日用品になってしまう。日用品を作る側を捨て、価値あるものを作る側に米国はまわろうとしている。2004年のIBM中国企業へのパソコン事業売却とGoogleの株式公開はそれを象徴している。
      一方モノ作りを強みとする日本はまだ「こちら側」に没頭している。
    • ・電子メールは「こちら側」に置くか「あちら側」に置くか
      GoogleGmailは「こちら側」の情報を「あちら側」に移してしまう戦略の一端。
      マイクロソフトが覇権を握っている現在はまだ情報が「こちら側」にある状態だが、GoogleGmailの付加価値である検索力とセキュリティ能力を売りに情報を「こちら側」に移行させようとしている。
      そしてGoogleはその個人の電子メールを解析することでその個人情報や嗜好を探りそれに合わせた広告を提供する。
      本来ならプライバシーの侵害に当るような行為だが、スパムメールやウィルスの駆除のために必要な行為でもあり、コンピュータがそれを自動で行いその情報に人が関与することは無いとして、Googleは個人のプライベート空間まで広告事業に使おうと発想している。

著者が情報発電所って言葉を最初から使っていてそれがピンとこなかった。情報処理所でなくなぜ発電所なのか? しかしこの章を読んでいて、情報を整理、選択してそれに付加価値を付けるという点で単なる処理ではなく発電という言葉を使ったのだと理解できた。

  1. グーグルの本質は新時代のコンピュータ・メーカー
    • ・情報発電所のシステム・
      情報発電所とは要するに巨大コンピュータ・システムである。
      Googleは従来のようなメーカーに発注してインフラを作るという事をせず、ゼロからインフラを構築した。
      「コンピュータ・システムそのものを設計する」学問分野は米国が抜きん出て進歩していたが、主流のPC産業であるマイクロソフトのOSやインテルのマイクロプロセッサに付加価値が集中していたために、その学問分野のはあまりIT産業では生かされていなかった。
      Google創始者であるセルゲイ・ブリンラリー・ペイジはその学問的進歩がいかに凄いかも、それがIT産業にまだ生かされていないことも、その技術を扱える人材がシリコンバレーにいることも熟知していた。
    • ・ゼロから自分たちで作る
      ブリンとペイジたちが考えたのは、自分たちの学んだ「コンピュータ・システムそのものを設計する」学問分野の成果を駆使して情報発電所を作るという事だった。
      そして出来たのは、価格性能比の高いのプロセッサやストレージを大量に並べて低コストをはかり、どこか一部が故障しても全体として動き続け、かつ処理しなければならない情報やトラフィックの量に応じていくらでも部品を増やせるように設計されたコンピュータだった。(スケーラブル・アーキテクチャという)
      自社サービス実現のために自社で作って利用することで、圧倒的な低コストを実現した。
    • ・グーグルとオープンソース
      Googleはハードウェアだけでなくソフトウェアも低コストで自社開発した。
      リナックスを始めとするオープンソース・プロジェクトの成果を無償で利用し、その上に自社のシステムを構築することで低コストを実現。オープンソースに置けるライセンス関係のルールや利用上の制約はソフトウェアの配布に関連して定められているので、Google側のみで使う場合は配布という問題が生じないため「あちら側」の企業ほどその成果を最大限利用できる。
      余談になるがGoogleのチーフ・オペレーションズ・エンジニアのジム・リースはハーバード大学の生物科とエール大学の医学部を卒業し、本職は神経外科である。そんな人物が1999年のまだ海のものとも山のものとも知れないGoogleに身を置き、本職とは違うシステムの開発を行い、4年後にはIT産業全体に強い影響を及ぼしていた。そんなダイナミズムが、シリコンバレーの面白さでもある。
    • ・「情報発電所」構築における競争優位の源泉とは
      Googleは自分らの持ち込んだ新しい方法により優位に立ったが、これからは競争になり、マイクロソフトやヤフーが資金力や人材力をつかって立ち向かってくる。しかしGoogleにあって他の大企業に無いのは、「優秀な人物が、泥仕事を厭わず、自分でてを動かす」という企業文化である。この企業文化を持っていることが、情報発電所構築の競争においてGoogleが優位を保てる理由のひとつである。

Googleは全てを「ゼロから作った」と書いているけど、これは「一から作った」が的確なのではないかな。もともとGoogleのシステムを作れたのも「コンピュータ・システムそのものを設計する」学問分野の成果や、オープンソースの成果があったからだし、コンピュータもネットも存在しない状態から作り上げたのなら「ゼロから」になるのだろうけど。無から有は作れないのです。揚げ足取りでしかないのかもしれないが重要なことだと思う。
スケーラブル・アーキテクチャって凄いですね。これって現時点では最も理想的なシステムなんでしょうね。こん凄いものが実現していたなんてちっとも知りませんでした。

  1. アドセンス-新しい富の分配システム
    • ・グーグルが作るバーチャル経済圏
      Google時価総額は現在10兆円を超えていてそれが5000人によって支えられている。これは一人頭の時価が20億円になり、日本での2兆円以上の製造業の一人頭の時価総額の100倍以上である。一見株価バブルのように感じられるが売上高と利益の成長が著しいためそうとは言いきれない。
      その収入を生み出す仕組みが「アドセンス」などの広告収入である。
      アドセンス」とは、サイトの解析をGoogleが行い、そこに一番マッチした広告を自動配置するシステムのこと。個人や企業が自分のサイトを登録(無料)することにより、広告収入を得られる。
      英語圏では「アドセンス」で生計を立てられる者も出てきている。
      Googleは広告市場のカネの流れを変えるだけでなく、「ネット世界の三大法則」のひとつである「ネット上の新しい経済圏」を作りつつある。
    • ・新しい富分配のメカニズム
      アドセンス」とは集まってくる広告費を流通機構を介在させること無く分配できる。「中抜きはインターネットの本質」と昔から言われてきたが、実際には恐ろしく高度な技術が必要で、情報発電所の開発によってそれが可能となった。
      従来の経済圏だと富の分配は巨大企業を頂点とした階層構造によって行われてきたため末端まで分配が行き渡らず、そこに限界があった。Googleは階層構造の無い経済圏により新しい富の分配メカニズムを作り上げようとしている。それは経済的格差是正へもつながる。
      民主主義、経済格差是正などを標榜するIT企業はGoogleくらいで、そこに新しさがある。彼らは「インターネットの意志」に従えば「世界はより良くなる」と信じている。

階層の末端にいる私のような人間から見れば経済的格差是正は大賛成でGoogleにはがんばってほしいと思う反面、「インターネットの意志に従えば世界はより良くなると信じている」とGoogleはなぜ心から信じているのか? その根拠が提示されていないので、何か狂信めいた薄ら寒さを感じてしまうんですよね。まあそこらへんは末端にいる我々の感覚でしかなく「優秀な人材」の人たちの感覚で理解されるもととは違うのかもしれませんが(軽い自虐)
アドセンスについて。
竹熊健太郎のブログの「たけくまメモ」で以前アドセンスを突然停止させられてしまった問題が話題になっていた。

http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2005/05/google_adsense_e170.html
詳しい内容は記事を読んでもらうとして、自分の身に覚えの無い理由で突然アドセンスが停止されてしまうというのは、本当に不快だと思う。ここにコンピュータによる自動化の弊害が出ている。もちろんGoogleの自動化がまだ完成させられたものではないからなのだろうが、情報発電所は、この「個人の気持ち」の問題をどう処理していくのだろう?
今のところこの本はGoogleの凄さ多くをあげているが、Googleが凄ければ凄いほどその中の「富の分配」の恩恵から一方的に外されてしまった人の疎外感は強いのではないかと想像してしまい怖い。まだまだアドセンスは未成熟なような感じで、おいそれとは手が出せないような気がする。

Google Corporate Information:Our Philosophy

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